真空調理は適温調理

真空調理法 という、耳慣れない料理法があります。

肉や魚などの調理に威力を発揮する方法ですが、
現在のところ主にホテルやレストラン、機内食などの外食産業で導入が進んでいるものです。

しかし、日本の場合、保温機能のついた炊飯器という精密な恒温装置がどの家庭にも存在するため、
どなたでも手軽にその恩恵にあずかることができます。

業務用のプロセスでは巨大調理工場で調理してから、
店舗で客に出すまでの流通と時間を考え、扱いやすさと保存のために真空パックを使うのですが、
家庭用ではすぐ食べてしまうため真空にはほとんど意味がありません。

真空調理袋の密閉性を生かした、比較的高温で調理する手の込んだ料理もありますが、
真空調理では何のことかわかりづらいし、ここでは適温調理という名前で呼ぶことにします。
実際にこれがタンパク質調理の最適温度なのです

適温調理でどんないいことがあるかというと

今までの肉調理との違いを見てみましょう

ステーキを焼く場合を考えてみます。

フライパンに脂をひき、冷蔵庫から出した安い輸入牛肉をのせ、数分おいた状態です。
肉の中央の色の縞々は肉の内部温度を表しています。

フライパンの温度は180℃ぐらい、ジュージューいっていい匂いです。

肉がフライパンと接するごく薄い表面部分はフライパンよりわずかに低い温度ですが、
少し肉の内部に入ると急激に温度が下がっていきます。
肉は水分をタンパク質で囲んだ構造で、ほぼ水に近い熱伝導率0.5であり、
とても熱が通りにくいのです。

他の物質の熱伝導率は、耐熱ガラスや陶器で1.7、ステンレス19、鉄78、アルミ238、銅397、(w/k・m)
単位 時間 x 距離 x 温度 の熱量で表されます。
つまり、時間が長いほど、距離が短い(厚さが薄い)ほど、温度差が大きいほど、より多くの熱が伝わるわけです。

肉はほぼ50℃ぐらいからいわゆる火が通った状態になり
色が変わります(タンパク質の熱変性)。図の赤身が茶色くなっていく部分です。

ここでひっくり返し熱を加えて焼き、めでたく中心温度は75℃、
中央の温度分布で見ると肉全体が白くなった状態です。
切っても生の部分はありません。さっそく食べてみましょう。

うっ、、、硬い、、、ぱさぱさで、、、噛み切れない。

やっぱり安い肉は、だめか、、、。涙

これは肉が悪いのではなく焼き方が悪いのです。

ちゃんと焼くには

どうも肉には美味しく焼けた温度というものが存在するようです。
(おお、こっちにも別の温度が、どっちが本当なんだ?)

そういえば、中華の八宝菜の薄い豚肉もレストランで食べるのと家で作るのとでは
歯ざわりも口に広がる肉汁の旨味もぜんぜん違う、、、?

何が違うんだ!!!

肉に火が通るというのは、肉のタンパク質が熱により適当に手近のタンパク質とくっついて
別の固まりになるということのようです。
肉内部のタンパク質の種類により変化する温度に差があり、
45℃ぐらいから変化が始まり65℃で組織を作っている筋の部分が大きく縮み硬く結合します。

上の図の黒線は肉の温度を上げていった時の食感としての硬さ(噛んだときの千切れやすさ)の変化をあらわしています。
生肉は柔らかいのですが、弾力のあるゴムのようで噛み切れない。

いちばん柔らかいのが、60℃ぐらいで、ほぼ65℃を超えると一気に硬く小さく縮んでしまいます。
(焼くと肉がそりかえる理由ですね)
硬くなるだけではなく、縮むことにより内部の旨味たっぷりの水分も押し出され
パサパサの肉となってしまうのです。

実際にどの種類の肉もきっちり65℃で変わるのかというと、そうでもないようですし、加熱時間も関係します。
まあ、均一に熱を通すのはむずかしいし、ほぼそのぐらいの温度で変わってしまうと考えればいいようです。

美味しい肉の料理法とは、どうやって60〜65℃に調理するかだったんですね。

ところが、これがとても難しい技で、プロのコツや手際の世界なのです。

プロの中華料理人の八宝菜の調理を見ていると、
肉やイカを最初に大目の油で揚げるように火を通しています。
油通しというのですが、これはごく短時間加熱するだけで、すぐに肉ごと油を戻し、
肉は油切りの中で室温にさらされます。

何をやっているのかというと、

この間に、他の材料の調理をして、最後に肉を入れ、スープを入れ、とろみをつけてできあがりです。
この時間は非常に短くてあっという間に終ってしまいます。
つまり肉に熱が伝わる時間が短いわけです。

家庭でやると、肉を炒めて、他の材料を入れて炒めて、スープを入れて煮て、とろみをつけて、、、、。
肉は十二分以上に火が通り、パサパサのがちがちです。
もっと煮込んでいれば煮物として美味くなるのに、いちばん硬くてまずいときに食卓に運ばれています。

肉の厚みと熱の伝わり方も考えてみましょう。

厚い肉ほど、中心まで熱がつたわるのに時間がかかります。

つまり、よほど低温でゆっくり加熱しないと、どうやっても中心が65℃になるまでに、そのまわりは7−80℃、
表面に近い部分では100℃近い温度に、厚ければ厚いほど長時間さらされてしまうのです。

ステーキの中まで火を通す加熱は、ジュウジュウ音がするまでフライパンを熱してはいけない。
しかし、弱火で温めるだけといっても、フライパンの表面は100℃近くになっているはずなのです。

肉を室温まで温めるのも同じ理由です。

冷蔵庫から出したばかりの肉は中心まで10℃ぐらい、これを65℃まで上げるわけですから、
調理前に少しでも肉の温度を上げ室温の2〜30℃としておくことの利点がわかると思います。
加熱時間は短いほどいいのです。
(東南アジアのチキン丸焼きがジューシーで美味いのも、実は気温のせいではないかと考えはじめています)

肉そのものの味を楽しむ料理の適温は65℃ですが、もっと高温で長時間加熱する料理はどうでしょうか。

たとえば煮込み料理です。

煮込み料理では、鍋の中で90℃ほどの温度で長時間加熱するわけです。
(煮えている鍋でも温度は100℃とはかぎりません。中弱火だと90℃ぐらいです)

肉のタンパク質は最初は硬くなりますがその後の加熱で時間がたつと分解し、また柔らかくなります。
肉の旨味はスープに出てしまいますが、煮込んでいくと逆にスープの旨味が肉に含まれ美味しくなります。

では、65℃ほどの温度で長時間加熱ではどうなるのでしょうか。

硬い牛すね肉などをこの条件で加熱すると、普通に加熱するより美味しいという研究もあるのです。


何が適温かは、だいたいわかりました。

肉そのものの味を楽しむためには、60〜65℃ぐらいまで加熱すると美味い。
しかし、料理を加熱する理由は味覚だけではありません。加熱にはもう一つ重要な機能があります。

それは、殺菌です。

殺菌の適温は、何度なのでしょか。

これはややっこしい問題ですが、低温殺菌(パスツライゼーション)では60℃30分とされています。

また食肉の加工販売の基準でも、食品衛生法で「製品の中心部の温度を63℃、30分以上加熱する方法、
またはこれと同等以上の効力を有する方法で加熱殺菌すること」と定められています。

胞子の状態で生き残る菌や高温耐性菌もあるので、これだけでは完全に無菌となったわけではありませんが、
必要にして十分な殺菌です。細菌のタンパク質も熱変性して死んでしまうというわけです。


実際の真空低温調理は、
食品生産工場で巨大な恒温槽やスチームクッカーを使って正確に調理されるわけで、
一般の家庭とは縁が遠いような感じですが、実は家庭にも精密な恒温槽があります。

電気炊飯器の保温機能です。

電気炊飯器のご飯の保温温度は、
細菌が繁殖しにくくご飯の水分が飛んでしまわない低温殺菌温度を目安に作られ、
温度検知してマイコン制御で一定の温度を保っています。

最近のものだと省エネを考えてか63℃ほど、ものにより67℃ぐらいに設定した炊飯器もあるようです。

工場生産の場合のステーキは、最初に表面の焼き色をつけてから、
中は生のまま真空パックに入れ、低温加熱、中心温度が63℃になったら30分ほど保持し、
急速冷却し保存。店に配達して冷蔵。注文があったら、軽く加熱(50℃ぐらい)し、
袋からだして熱々の鋳鉄鉄板にのせジュージュー音の演出と共にテーブルに運ぶわけです。

ファミレスでステーキやハンバーグを頼んだらほとんどこれです。

ね、確かに柔らかくて美味いが、なんだか肉がぬるいでしょ。笑


フライパンで肉を焼くのは、とても難しいです。

特にコラーゲン組織が多く、脂肪の少ない輸入肉は、少し焼きすぎるととたんに硬くなってしまいます。
それで脂肪が多いため熱伝導率が高く焼きやすい肉、コラーゲン組織の少ない硬くなりにくい肉が、
高級肉としてもてはやされるわけです。

しかし、炊飯器を使い家庭で適温調理すれば、輸入肉でも最高に柔らかく焼けます。

鰹のたたき風に金網の上で強直火で炙ってもいいし、熱くしたフライパンで加熱してもいいです。

わずか数十秒で出来上がりです。

ポリ袋に少し肉汁が出てますからこれも入れてソースを作っても二、三分です。

炊飯器にご飯が入っていて保温中なので、できない?

簡単です。ご飯の上にそのまま肉のポリ袋を乗せてしまいましょう。問題なし!

      *炊飯器の保温で、ご飯が変色したり異臭がある場合はこれを読みましょう


ほどよく茹でるのが非常に難しい、イカ、タコ、鶏肉、などもこれで加熱するとほんとうに柔らかく仕上がります。

魚の煮付けや、肉の入ったスープ類も一味違いますので、いろいろ工夫して投稿していただけるとありがたいです。


リンク

●真空調理関係

谷氏インタビュー 

真空調理開発者が真空調理について概略を説明

はなまるマーケット とくまる「家庭でプロの味!簡単 真空調理」

炊飯器の保温を使うってのは、とっくにテレビでやってた。いいこと思いついたと興奮して損した気分です。笑
ローストビーフの加熱時間が、「4−50分、それ以上加熱しない」というところに注目、
微妙な温度管理なんですね。ポトフ、鯖の味噌煮、のレシピも載ってます。

辻学園のシェフレシピ 真空調理

プロのシェフ向けに書かれているようですが、どれも手が込んでいて美味そう、、、。

●低温調理関係

SCIENCE OF THE KITCHEN 

肉の調理最適温度について実験と解説 肉の小片を45−75℃まで5℃刻みで調理した結果写真など
食肉国ではオーブンで長時間。ほかにも、魚肉の最適調理温度が45℃という記述がある。2004/4
イギリスのサイトだがぜったい見なければ損、写真だけでもよくわかります。 英文

*低温調理では悪名高い七面鳥丸焼きなんですが、そのうち探してリンクにのせます。

●その他関係ページ

今さら聞けない肉の常識 第18回 <焼くと肉が縮むのはなぜ?>

熱による肉のタンパク質変化についてくわしい。加熱温度だけではなく加熱時間も重要な要素!

 

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